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東京地方裁判所 平成6年(ワ)3461号 判決

原告

村田健次

ほか一四名

被告

ビヨンズトランズ株式会社(旧商号後藤運輸株式会社)

主文

一  被告は、原告村田健次に対し金八八〇万円、原告鈴木孝好、原告鈴木一に対し各金二二一万九四七七円、原告長谷川萬平、原告長谷川昭、原告菊池完に対し各金一一〇万九七三八円、原告木村喜雄、原告柿田まさ江、原告絹川きみ子に対し各金五五万四八六九円及び原告石田充利、原告石田武尚、原告石田貞三郎、原告石田衛、原告目黒君男、原告佐藤冨美枝に対し各金三六万九九一二円並びにこれらに対する平成四年四月九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告鈴木孝好、原告鈴木一、原告長谷川萬平、原告長谷川昭、原告菊池完、原告木村喜雄、原告柿田まさ江、原告絹川きみ子、原告石田充利、原告石田武尚、原告石田貞三郎、原告石田衛、原告目黒君男、原告佐藤冨美枝のその余請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告鈴木孝好、原告鈴木一、原告長谷川萬平、原告長谷川昭、原告菊池完、原告木村喜雄、原告柿田まさ江、原告絹川きみ子、原告石田充利、原告石田武尚、原告石田貞三郎、原告石田衛、原告目黒君男、原告佐藤冨美枝の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一、三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告村田健次に対し金八八〇万円、原告鈴木孝好、同鈴木一に対し各金二七〇万五五一四円、原告長谷川萬平、同長谷川昭、同菊池完に対し各金一三五万二七五七円、原告木村喜雄、同柿田まさ江、同絹川きみ子に対し各金六七万六三七八円及び原告石田充利、同石田武尚、同石田貞三郎、同石田衛、同目黒君男、同佐藤冨美枝に対し各金四五万〇九一九円並びにこれらに対する平成四年四月九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実及び証拠によつて容易に認定しうる事実

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成四年四月九日午後〇時一五分ころ

(二) 場所 東京都八王子市裏高尾町一五八八番地先路上

(三) 態様 右場所において、訴外本田尚登(以下「訴外本田」という。)運転の大型貨物自動車(登録番号「沼津一一く九三四六」、以下「被告車」という。)が、原告村田健次運転の普通乗用自動車(登録番号「習志野五九た六三二五」、以下「原告車」という。)に追突した。

その結果、原告車に同乗していた訴外村田みさ(明治四四年六月八日生まれ、本件事故当時八〇歳、以下「亡みさ」という。)が死亡した。

2  責任原因

訴外本田は、自動車を運転するに際し、前方を注視して進行する注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、左前方に気をとられ、漫然進行したため、停止直前の原告車に気付かず、本件事故を惹き起こしたものであるから、民法七〇九条に基づき本件事故により生じた損害を賠償すべき義務がある。被告は、訴外本田を従業員として使用し、本件事故は、訴外本田が被告の業務執行中に惹き起こしたものであるから、民法七一五条一項本文に基づき本件事故により生じた損害を賠償すべき義務がある。

3  相続

亡みさの夫、子及び兄弟姉妹は本件事故当時すでに死亡しており、その相続人は甥及び姪ら(代襲相続)であるところ、各原告らは、以下のとおりの法定相続分に従い、亡みさの被告に対する損害賠償請求権を相続した(甲一一、甲一二の一ないし三四)。

(一) 原告石田充利、同石田武尚、同石田貞三郎、同石田衛、同目黒君男及び同佐藤冨美枝は、亡みさの兄薫平の子であり、その法定分相続分は、各四二分の一である。

(二) 原告木村喜雄、訴外木村利夫、原告柿田まさ江及び同絹川きみ子は、亡みさの兄茂作の子であり、その法定相続分は、各二八分の一である。

(三) 原告長谷川萬平及び同長谷川昭は、亡みさの姉江つの子であり、その法定相続分は、各一四分の一である。

(四) 訴外鈴木幸江及び原告菊池完は、亡みさの姉登免の子であり、その法定相続分は、各一四分の一である。

(五) 原告鈴木孝好は亡みさの姉なかの、訴外藤池利一は亡みさの姉る以の、原告鈴木一は亡みさの姉すへのそれぞれ子であり、その法定相続分は、各七分の一である。

二  争点

1  原告村田健次を除く原告らの損害

原告らは、本件事故に基づき亡みさに発生した損害として、〈1〉逸失利益、〈2〉慰謝料、〈3〉弁護士費用を主張し、被告は、その額及び相当性を争う。

2  原告村田健次固有の損害

原告らは、原告村田健次(以下「健次」という。)は、亡みさの相続人ではないが、同原告の実父村田久保(以下「父久保」という。)が亡みさと婚姻して以来、その幼少時は亡みさの養育を受け、成年に達してからは亡みさを助け、扶養し亡みさの死亡まで四五年間にわたり亡みさと同居してきたものであり、亡みさの死亡により甚だしい精神的苦痛を受けたとして、民法七一一条の類推適用により固有の慰謝料及び弁護士費用を主張し、被告はこれを争う。

第三争点に対する判断

一  亡みさの損害

1  逸失利益 四五三万六三四二円

(請求 七九三万八五九八円)

甲八の一、二、甲九の一、二によれば、亡みさは、本件事故当時八〇歳一〇か月のほぼ健康な女性であり、年額八六万四七〇〇円の日本鉄道共済組合の年金及び年額八六万一三〇〇円の厚生年金保険の年金の合計一七二万六〇〇〇円を取得していたことが認められ、平成三年簡易生命表によれば、平均余命は八・二〇年であるから、亡みさは、本件事故により、少なくともこの間の右年金を喪失したものと推認することができるところ、逸失利益の算定にあたり、亡みさの生前の生活状況に照らし、生活費として収入の六〇パーセントを控除するのが相当である。そこで、中間利息をライプニツツ方式で控除して、本件事故時における亡みさの逸失利益の現価を算定すると、次のとおりとなる(円未満切捨て)。

1,726,000×(1-0.6)×6.5706=4,536,342

2  慰謝料 一〇〇〇万〇〇〇〇円

(請求 同額)

本件事故に遭つた際に被つた亡みさの恐怖、苦痛、本件事故により突然生命を断たれた無念さ、その他の諸般の事情を総合的に考慮すれば、慰謝料として右額が相当である。

3  合計 一四五三万六三四二円

4  弁護士費用

本件訴訟の経緯に鑑み一〇〇万円が相当である。

5  合計 一五五三万六三四二円

二  相続後の各原告ら(原告健次を除く)の取得額(円未満切捨て)

1  原告鈴木孝好、同鈴木一(相続分各七分の一) 各二二一万九四七七円

2  原告長谷川萬平、同長谷川昭、同菊池完(相続分各一四分の一) 各一一〇万九七三八円

3  原告木村喜雄、同柿田まさ江、同絹川きみ子(相続分各二八分の一) 各五五万四八六九円

4  原告石田充利、同石田武尚、同石田貞三郎、同石田衛、同目黒君男、同佐藤冨美枝(相続分各四二分の一) 各三六万九九一二円

三  原告村田健次固有の損害

1  慰謝料 八〇〇万〇〇〇〇円

(請求 同額)

甲一二の二、一三、原告健次本人尋問の結果によれば、原告健次は、父久保とまつ江の間に昭和一八年三月六日に出生したが、まつ江が死亡し、父久保が亡みさと昭和二二年一一月四日に婚姻して以来、その幼少時は亡みさの養育を受けていたこと、父久保が亡みさと婚姻した当時、原告健次は、四歳であり、亡みさが実母でないことを知らなかつたこともあり、実の母として慕い、中学生のころ、亡みさが実母でないことを知つた後もその想いは変わらず、成年に達し、昭和四六年一二月一日、絢子と婚姻した後も、また昭和五八年五月一九日に父久保が死亡した後も亡みさと同居を続け、その期間は、亡みさの死亡まで四五年間にわたること、原告健次が成年に達してからは、原告健次が亡みさの生計を援助したこと、原告健次が絢子と婚姻した後、亡みさは、絢子との仲も良く、その家事を手伝い、原告健次の子らの世話もし、原告健次の子らに慕われてもいたこと、養子縁組の話は、亡みさの生前出たことはあるが、法的手続に不慣れであつたことや、長年の生活から、養子縁組をしなくとも実の親子と同様であるとの気持ちがあつたことなどから、結局養子縁組はしなかつたことなどの各事実が認められる。

これらの原告健次と亡みさとの同居の期間、その生活状況、養子縁組をしなかつた事情等に照らせば、原告健次が相続人でないとしても、原告健次と亡みさとの関係は、実質的に親子と変わるところはなく、本件事故により亡みさを亡くした原告健次の悲痛に計り知れないものがあることは容易に推認できる。このような場合、原告健次が亡みさの子でないとしても、子に準じ、民法七一一条を類推適用して固有の慰謝料を認めるのが相当であると解すべきであり、その額は、諸般の事情に照らし、本件においては、右額が相当である。

2  弁護士費用 八〇万〇〇〇〇円

本件訴訟の経緯に鑑み、弁護士費用として右額が相当である。

3  合計 八八〇万〇〇〇〇円

四  以上の次第で、原告村田健次の本訴請求は理由があるから認容し、その余の原告らの本訴請求は右二記載の各金額及びこれらに対する不法行為の日である平成四年四月九日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松井千鶴子)

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